【通勤GD】
通勤GDとは‟通勤ゴルフダイジェスト”の略。世のサラリーマンゴルファーをシングルに導くために、月曜日から金曜日(土曜日)までの夕方に配信する上達企画。帰りの電車内で、もしくは翌朝の通勤中、スコアアップのヒントを見つけてください。
前回のお話し
百万語を尽くすより
イメージを脳に刻む
篠塚 先日道場に、耳の不自由な子たちにゴルフを伝えている方が「桜美式」を習いたいとやってきてくれました。少子高齢化でゴルフ人口の激減が不安視されているなか、ゴルフ界はどなたにでも門戸を開かなければならないはず。たとえば耳の不自由な人にも、今までどおり言葉をメインにして難しい理論を理解させようというのは、一方的な姿勢に思えます。
GD 確かに、言葉でのレッスンでは耳が不自由な方は困りますね。
篠塚 「桜美式」は、その点でも従来のレッスンより優位性がある。なぜなら普段から、ジュニアたちを育てているから。私はジュニアたちにレッスンする際、なるべく言葉を用いません。百万語を尽くして説明するより、絵でイメージを伝え、脳に覚えさせるのではなく、脳に刻むんです。
絵を見せて
レッスンしてきた
GD 「脳に刻む」?
篠塚 受験勉強の暗記が悪い例ですが、いくら必死に覚えた公式や年号なども、いつしか忘れて消えてしまうでしょ。ゴルフも言葉で覚えさせられたものは、身につかずにまた同じミスの原因になってしまうこともしばしばあるんです。そこで私は、ジュニアに対して言葉ではなくイメージを使ってレッスンしてきました。体のある部位の位置や角度や動かし方の話などせず、一瞬でそれらをコントロールできる絵を見せるんです。
GD 言葉より絵、ですか。たとえばどんなイメージでしょうか。
篠塚 以前から読者のみなさんに、球は腕力で飛ばすものではなく、「体の回転で飛ばす」という、「勾玉スウィング」の基本についてお話ししてきました。そこで、改めてイメージを用いて説明してみましょう。まずはあえて言葉で解説すると、テークバックでは両手でクラブを上げようとするのではなく、ましてや後方へ長く引くのでもない。右の鎖骨あたりを引き上げる感覚がいい。それにつられる形で、右ひじがコンパクトに畳まれます。そのとき左腕はひじが曲がってもOK。左腕をピンと伸ばして遠くへ、というのは体の捻りにつながるので非効率で不正確です。と、テークバックだけでも、足早に説明したとしてもこれだけの文字数を要してしまう。こんなふうに教えても、たとえその場だけやれたとしても、翌日にはまた腕力に頼る人がいて、上達が非常に遅い。そこでイメージしてもらうのは、犬がずぶ濡れになったとき、どうやって水を弾き飛ばすか。それを簡素に絵で描き、練習前にジュニアたちに配りました(図①)。
“犬の水切り”イメージは素早い回転とキレを生む
GD 水を弾き飛ばす犬、ですか。絵がユニークですね。
篠塚 絵は簡素なものでも充分。脳内にイメージさえ刻まれればいいわけですから。ずぶ濡れの犬は、首の付け根から上と、胴体とを切り離すかのようにして、実に効率的に左右へ回転運動をしている。人間も腕力で加速してクラブのヘッドスピードを上げようとするのではなく、いかに体の回転速度を速められるか。その際に体のどこをどのようにして動かすのかという説明よりも、ただ水を弾き飛ばす犬を想起してもらうだけ。ジュニアのスウィングのキレがはっきりと変わります。
GD なるほど、犬のブルブル動作ですね(笑)。誰もが知っていますから、イメージしやすいです。
篠塚 でも、犬の水切りという1つのイメージにも固執せず、いろんなイメージを与えて理論を伝える工夫をしているんですよ。たとえばテークバックでもう1つ。時松隆光プロのスウィングは、力感がなくてとても静か。テークバックではどこにも力が入っていないように見えるほどで、インパクト少し手前にパワーを集中できている。腕がガチガチに力んでしまっているゴルファーには、いくら「力を抜いて静かにテークバックしなさい」と言ってもダメ。たった1つ、スキーのジャンプをイメージしてもらうだけです(図②)。
GD 今度はスキーのジャンプ!
篠塚 スキーはあんなにまでダイナミックに遠くへ飛ぶのに、滑走しているときにはとても静か。ただじっとしゃがんでいるその姿勢からは、力感など伝わってこない。しかし、坂の最下点の寸前に来たとき、股関節やひざや足首などで地面の反力を使ってジャンプする。あのイメージで、スウィングでもスーッと静かにテークバックし、トップからの切り返しでもまだ力まず、インパクトの寸前で全パワーを解き放つわけです。
GD なるほど。犬の水切りと、スキーのジャンプ。素速い体の回転と、パワーの集中を、感覚的に身につけられそうです。
篠塚 イメージは目から入り脳に一瞬で刻まれ、忘れないからレッスンも堂々巡りしなくてすむ。「桜美式」はわかりやすく簡単だと言われ、冒頭の話のように多くの聴覚障害者の方々にもゴルフを生涯スポーツとして楽しんでいただければよいですね! ゴルフの価値が上がるはずです。
時松隆光プロの静かなテークバック
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