解説/アキ・ソラーノ
日本育ちの米国人。ラスベガス在住。ディープマインドフルネス脳科学協会会長。ヨガ哲学とマインドフルネスを融合させたディープマインドフルネスの開発者として、西洋のマインドフルネスと東洋のヨガについて長年研究。ヨガは世界最高峰の資格を保持。ゴルフ歴25年
マインドフルネスとは?
「世界の企業が活用する“心を整える”訓練法」
【定義】「今に意識を集中させる」東洋の禅と 実践法
「今に意識を集中」「過去や未来を考えない」がポイント。過去の経験による先入観やあふれる雑念にとらわれず「この瞬間の感覚」「周囲の状況」をあるがままに知覚して受け入れ、今に集中することでパフォーマンスを高める実践法
【歴史】東洋の禅と西洋の科学の融合で生まれた
東洋(インド)で始まったヨガの教えのひとつ「今に生きよ(アタ)」がマインドフルネスの源流。東洋に受け継がれてきた叡智を西洋の科学で整理し、心のバランスを取り戻し、ストレス軽減や
パフォーマンスを高めるためのメソッドとして確立されていった
【注目される理由】アップルやグーグルなど世界のトップ企業が導入
アップル、グーグル、フェースブック、ツイッター、ナイキ、インテルなどがマインドフルネスを
導入。アメリカ社会で欠けている心の平安により『今』への集中で得られるとして、2000年代に入り注目され、広く知られるようになった
5分のマインドフルネスで
パフォーマンスが向上
世界の一流企業やその経営者をはじめ、トップアスリートや女優まで実践するマインドフルネス。ビジネス以外の分野でも導入されているが、ゴルフにおいても有効なのだろうか。自身も歴25年のゴルファーであるアキさんは、4つの効果を指摘する。
【1】集中力アップ
ショットの度に心をリセット
すべてのショットをありのまま受け入れ、過去への執着を手放すことで、心を切り替え次のショットに集中できる。「タイガーは10歩歩けば嫌なことは忘れると言います。メンタルをリセットすることで次の一打に集中できるように訓練していたのです」(アキ)
【2】メンタル強化
プレッシャーを力に変える
「呼吸は自律神経と深く関係しています。緊張が高まると呼吸は乱れます(交感神経優位)が、呼吸によって副交感神経を優位にさせられれば、リラックスした状態でプレーに集中できます」(アキ)。今に向き合うことでプレッシャーを力に変えることができるのだ。
【3】パフォーマンスアップ
ゾーン状態に近づける
バスケの神様、M・ジョーダンは「瞑想によって周囲の動きやコートがよく見えた」と語ったが、まさにゾーンそのもの。「ジョーダンに限らず、イチロー、タイガーなど、一流選手の多くがマインドフルネスでパフォーマンスアップを実現しています」(アキ)
【4】不安からの解放
結果にこだわらずベストを尽くす
結果にこだわらないメンタルを強化できるのがマインドフルネス。イチローが「気持ちが落ちると肉体でカバーできない」と語るように不安から解放されなければ、ベストは尽くせないのだ。「ストレスにつながる脳内のバランスを整える効果も実証済みです」(アキ)
【実践編】
思考モードと集中モードを
使い分ける
メンタルに詳しい、大本研太郎プロが考えるゴルフにおけるマインドフルネスとは、「何かに注意を向けること(=集中)」。
しかし、ゴルフ場は集中を阻害する“ノイズ”にあふれているという。
大木 音や風、ハザードなど、五感からくるものもあれば、同伴者の目もそう。これらのノイズに引きずられず、集中モードに持っていくためには、何か別のものに意識を向けなくてはなりません。
【コースで思考モードになりやすい理由】
風、ハザード、同伴者の目などさまざまなノイズがあるから
屋外で行うゴルフでは雨風、暑さなど、自然条件そのものがノイズになりやすい。また、コース内のハザードや同伴者の存在などもプレーに集中させにくくするノイズだという。思考モードから集中モードに移行させるには、別の何かに注意を向ける必要があるのだ。
【思考モード】→左脳優位
【集中モード】→右脳優位
その入り口となるのが呼吸(瞑想)。まずはショット前に“息を吐く”ことを意識するのだ。
大木 深呼吸のように息を吸うのはおすすめしません。なぜなら力みやすくなるからです。力を抜くイメージでフーッと息を吐くのが正解。そうすれば、緊張が和らぎ、今に意識を持っていけます。集中はなかなか持続しないため、全ショットで心がけるといいです。
集中モードを生む第2のポイントが「考えないこと」。ショット前の状況判断を終えたら、やるべきことをイメージ化する。
大木 鉄塔を狙う、スパットに合わせる、ヘッドをここに上げる、といった意識はダメ。これらはイメージではなく、現実の行為で左脳(思考モード)優位だからです。
では、大本プロが言うイメージとは、どういうものなのか?
大木 絵や音でイメージします。ショット系なら、私は『黄色くて大きなボールが象の鼻のような軌道で飛んでいく』というように漫画のようなビジュアルを描きます。狙いどころやカップが見えるアプローチやパットなら音が有効です。『ポンッと上がって、トントンと跳ねて、コロコロッと転がって、ビタッと止まる』みたいに、すべてを音でイメージすると集中モードが作りやすくなります。
思考モード(左脳優位)から集中モード(右脳優位)への切り替えに役立つマインドフルネス。自宅でも練習場でもコースでも、マインドフルネスで心を鍛えよう。
集中モードに切り替える
3つのルーティン
【ルーティン1】
全ショット息を吐いてからアドレス
集中モードへのスイッチが、マインドフルネスの実践法でもある呼吸だ。息を吐くことに専念すると(吐けば自然に息を吸う)、筋肉の収縮を生む緊張が和らぐと同時に、「今この瞬間」のみに意識が向くため、以前の失敗(過去)や結果(未来)に惑わされなくなる。
【ルーティン2】
アドレスしたら一切考えない
ショット前の状況整理は思考モードだが、アドレス後は一切考えない。真っすぐ引く、スパットを狙う、スクェアに打つなどに意識を向けても現実的なことでは左脳優位(思考モード)になりやすい。
【ルーティン3】
絵や音のイメージが集中モードを生む
イメージ化するのは、漫画チックな絵や音でわかりやすいという。飛んでいくボールの弾道なら「象の鼻のように」。インパクトの音なら「バシュッ」「ズバッ」など。大胆な妄想ができる人ほど、ボールへの意識が薄れ、現実から乖離できるため、集中モードに入りやすい。
【おすすめ】
集中を引き出す7つのイメージ
ターゲット(目標物)、ボール(色や形)、スウィング(軌道)、バランス(重心、足裏感覚)、クラブ(重さや大きさ)、音(打音、風の音)、感触(打感、グリップの感覚)。この7つのなかで、自分に合うイメージのキーワードを見つけ出そう!
TEXT/Toshiaki Muraki
PHOTO/Tadashi Anezaki、Atsushi Tomura、Shinji Osawa
週刊GD6月2日号より
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