「可愛い子には旅をさせろ」と言う。ゴルフが上手くなるには、これを自分自身に置き換えて、自分を厳しい状況に置くのが一番だと言うふたり。タブーに感じる“ニギリ”の話を、あえて聞いてみましょう。今週の通勤GDは「もう一花のゴルフ」Vol.30
【通勤GD】
通勤GDとは‟通勤ゴルフダイジェスト”の略。世のサラリーマンゴルファーをシングルに導くために、月曜日から金曜日（土曜日）までの夕方に配信する上達企画。帰りの電車内で、もしくは翌朝の通勤中、スコアアップのヒントを見つけてください。
海老原清治
千葉生まれ。02年欧州シニアで3勝、賞金王。還暦すぎて飛距離を伸ばす超ベテラン
奥田靖己
大阪生まれ。93年日本OPなど6勝。シニアで2勝。ゴルフの侘び寂びを追求する
前回のお話し
ニギッてなんぼ
奥田 ゴルフというのは、言葉で表せない何かわけのわからんものがあるやないですか。ショットがバラバラでも、パターが入りまくって勝ってしまったりとか。そういうわけのわからん部分というのは、なかなか伝えられへんのです。
海老原 そうね。スウィングの形は教えられても、プラスアルファの部分は教えるのは難しいよね。たとえばたぶん、QTを通ってトーナメントに出られるぐらいの選手たちなら、15番ホールまで、だいたい2アンダーでみんなくるはずです。
奥田 ファイナルQTの上位に入ってトーナメントに出られるぐらいの選手やったら、15番まで2アンダーでくるのは、難しくないやろね。
海老原 そこから16、17、18番、この3ホールで60台になるのか、パープレーになるのか、そこがオクちゃんの言う“わけのわからん部分”で、それは言葉になかなかできません。
奥田 最後の3ホールで1つでも潜らせるか、2つ落とすかはプロの価値として大きく違います。その違いというのは、わけがわからんもんなんですわ。
海老原 一応能力があるから15番までは一緒なの。そこからのプラスアルファって、そうだな、どんどん線を引く「ナッソー」をして、自分で見つけるなんてのがいいかもしれない。
奥田 普通の「ナッソー」は、アウトとインの勝ち負けとトータルの勝ち負けで、全部勝っても3点やけど、どんどん線を入れるのは“2ダウン自動線”、関西では“別線”というて、ようやるニギリです。わからん人のために説明すると、マッチプレーで、どちらかが2ダウンすると、そこに線を引いて新しいマッチがまた始まるというニギリ方なんやね。最終ホールになったらまた線を引いてやっていくんです。
「相手と対戦する気持ちがあれば、相手のプレーもよく見るし、駆け引きも覚えていくもんです」（奥田）
海老原 そうそう。1番、2番で負けると2ダウンだから、3番からまた新しいマッチが始まるわけね。そうするとハーフの最後、9番がすごく大事になるんです。
奥田 最初のほうでどんなに勝っていても、関係あらへんのです。
海老原 最後の7番、8番、9番。とくに8番で勝負がひっくり返るから、本当に真剣になります。
奥田 昔の人は勝負に強くなるために、そういうのを考えたんやね。いまはこういうご時世やから、あまり大きな声でニギリなんて言えませんけどね（笑）。
海老原 こういう遊びをやっているなかで後半の強さが鍛えられた。線1本を100円にしたり、もう真剣なんです。今でも僕は若い子を育てるには、こういう遊びをやっています。アマチュアの方も、「上がり3ホールが……」なんてよく言うけど、やってみたらいい。
奥田 「上がり3ホール」なんて吹っ飛びます。ゴルフは2人以上でやるからルールがあるんです。1人やったらルールはいらん。ということは、プレーするからには、対戦しなさいということやと僕は思うんです。もちろん、必ずニギリなさいとは言えへんですけど、対戦する意識がないから、ほかの人のプレーは見んようになってしまうし、上手くもならんのです。「あいつディボット跡に入っとるな。嫌やろな。ここはオレの勝ちやな」とか、そういう駆け引きもあるんです。
海老原 ニギってれば必ず相手を見てるよね。
奥田 いまの世のなか、ニギリは賭け事だからあかんとか、どんどんゴルフの面白さをなくしてますよね。
海老原 そうそう。何もお金を賭けろなんて言ってない。ジュース1本だっていい。もう1本、もう1本って、それが強くなる方法なんだよね。
奥田 教わってほんまに身につくというものは、なかなかない。これが一本道や言うても、繊細な部分は言葉では理解できへん。やっぱり自分で「これや！」と気づいて食らいつかないと。痛い目に遭おうてね。
海老原 そうそう。痛い目が一番。
奥田 ボコボコにされて、そこから立ち上がっていく。悔しさも味わっていかないとダメなんです。
【花咲く一言】
ニギリ精神を
上手く利用する
画／伊藤方也
TEXT／Chiharu Kubota
週刊ゴルフダイジェストより
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