【ゴルフコースの評価基準】
ゴルフコースを評価する「7つ」の項目がある。①ショットバリュー、②難易度、③デザイン・バランス、④ホールの印象、⑤景観の美しさ、⑥コンディション、⑦伝統・雰囲気。この7項目は米国ゴルフダイジェスト、ゴルフマガジンが発表するランキングの評価基準にもなっている。当コラム【伝説の名勝負。ヒーローの足跡】は、このコースでどのような「歴史」が作られ、「公式競技」を開催したかを掘り起こすことで、「伝統と雰囲気」をみるものです。
セベには、ニクラス以上の素質がある
ジュンクラシックでのノーマンについで、今週はもう一人の世界最強、セベ・バレステロスを見よう。
実物を見るのは初めてではないが、1試合、完全にウォッチングするのは初めてである。
まあ、そんなワケで土曜日の練習場から私(ジプシー後藤修)のウォッチングは始まるのだが、彼についての私の先入観を先に書くと、バレステロスとノーマンを比べたら、どっちが、「世界最強」かというと、その素質に関していうなら、バレステロスはノーマンより上どころか「20世紀最高の素質」ともいえそうだ。
同じ世界一級の強打者でも、ノーマンの体格は、ややイカリ肩(逆三角形型)気味でそのぶん、スウィングの重心が高めになっているが、バレステロスの方は、背筋力は強そうなスウィングなのに、肩は柔らかそうなナデ肩だ。
ただし、私が以前からバレステロスにマイナス点をつけているのは、彼が燃えやすく、オコリやすく、クサリやすい性格らしいこと。「燃える」ということは、この世界ではいいことのように思われているが、燃えるということは筋肉が黒コゲになることだともいえ、人間の体は「回復」したり、「再生」するものではあっても、とかく「ある試合(=マスターズ?)は狙い打ちで勝っても、そのあとはお休みとなる一発屋」になりやすい。
まあバレステロスの場合は、その一発が何年に一発ではなく、一発と一発の間が近いから、世界最強の第一候補なのだが、私の個人的見解をいうなら、彼がもっと冷静な選手だったらニクラス以上へいっているはず───である。
後藤修(1934年~)
プロ野球選手でありながら日本アマチュアゴルフに優勝した新田恭一に師事。新田が松竹ロビンズの監督に就任したことで、プロ野球界入りを果たす。1952年から1963年の9年間で、大洋、東映、大映、巨人、近鉄、南海、西鉄の8球団を渡り歩いたことで「ジプシー後藤」と呼ばれるようになる。引退後、ゴルフコーチに転身。ジャンボ尾崎、中嶋常幸の軍師として話題となる。自身の理論「スクェア打法」を提唱し、「後藤塾」を開講した。
舞台となった太平洋クラブ御殿場コースの特集記事はこちら↓
セベの狙い方は「ピンからフェードの100点ショット」
さて練習場でのセベのショットを見た私の印象をひと言でいうと「まずは90点」というところだ。
最近、彼は手首かどこかを痛めて調子が悪いと聞いていた。だが私は「調子は悪くない」と見た。
彼の球筋はフェード。厳密にみてスタンスもやっぱりフェードだ。そして「このスタンスだと、ここへ球が出てくるはずだ」と思って、先に発射方向へ目を向けて待っていると、見事にそこへ球が発射されてくる。
ここらへんが、彼が超一流である証明だ。(ノーマンも同じだった)
いや日本の3強だって、好調時には同じだ。
練習場というのは、各人好きな方向へ打っていいのだから、最初はどこを狙って打っているのか分からないのだが、(超)一流プロというのはそのアドレスを見れば、どこへ球が出てくるか、ピタリと分かるものである。
その上、バレステロスが90点(好調)だと思ったのは、彼はたしかに待っている所へフェードボールを発射してくるだけでなく、その球が実によく前へ出る。即ち、ほとんどスライスせずにストレートに近い球を打つのだ。
ただのスライスならば、プロもアマもみんな打つ。
しかし必ずスライス(フェード)して、しかも限りなくストレートに近い球を、一点へ向けて打ってくるというのは、一流プロが好調のときしかやれないワザだろう。
早速、本番で彼の強さを待っていたら、6番のパー5で、同じく持ち球フェードの湯原が、フェード失敗の左OBを見せた所で、バレステロスは、セーフの方から見事なドローで打ってバーディへつなげた。
このホール。私は「右がセーフだから右からドローで打つべきだ」と思って、右を見て待とうとしたら、彼は左を向いて(オープンスタンスで)フェード気味に素振りをした気がしたので、私は少しあわてた。
しかし、やっぱり彼はドローで打った。ナットク!
オープンスタンスでいつも通りに素振りしても、必要な時はいつでもドローで打てるのが彼のスゴさかもしれない。
そして次の7番パー3は、彼が見事なアイアンでピンの真上80センチへつけて連続バーディだが、このショットにはウナらされた。
このホール、本日はピンが、やや左めだったので、最初私は右からドローかなと思った。(磯村はそう打った)
しかし風はやや左風だから、左からフェードでも悪くはないと思った。(湯原がそう打った)
バレステロスはフェードに構え、ピンに真っすぐ打った。
「そうか、ピンからフェードか」とつぶやきつつ歩きかけ、途中で私はうなった。
球が落ちるまでスライスしないのだ!
このショットを私は日頃「ピンからフェードの100点ショット」と名付け、「練習場では、なるべく100点に近い球を打つ練習をし、試合では、ピンが右にある時、ややスライス気味の95点か90点で攻めるのが実戦的」といったりする。(試合では100点ショットはムリだから)
しかし、バレステロスは100点狙いで打って来た。前のホールがバーディだったから、勢いに乗りたい時にそうするのかもしれないが。
で、そのあとも「その問題」を注目していると、インの13番と17番の2つのパー3は、2つとも同じショット(100点狙い)をしようとして2つとも左へプル(ヒッカケ)してしまった。
そのショットとは別に、10番、12番、15番の短いアイアンでの第2打は絶妙のコントロールショットで球をピンの少し左へ打った。(10番と15番はバーディ、12番はミスパットでパー)
やはり、100点ショットをピンの少し左狙いで打っていくのが正解と、彼も考えているのだろうか。
それならこの日のバレステロスのショットは、全部ナットクというか、実にオールスクェアなゴルフといえる。
バレステロスという男は、フェアウェイの真ん中からでも、七色の変化球を操り、どこからでも、信じられないようなリカバリーショットを打つ、といわれいる。
しかし、私には「分からないショット」や、「信じられない球筋」というのは、ついに一発もなかった。彼のショットは、ほとんどすべて理にかなっているのだ。(実は、ノーマンの場合も、そうなのだが)アプローチやバンカーも、ラインを見極めて、ほとんど「ストレート(スクェア)打法」で打っていた。
ただし、面白いことを一つ見た。12番の3メートルのパットを、彼はまったくラインが分からずに、キャディに聞いたまま打ち(スライスラインをストレートに打つ)、右カップをちょっとナメたどころか10センチ以上も外している。17番のアプローチもラインを間違えて、フックラインをスライスラインと信じて打った。
世界一のバレステロスでも逆ラインで打つことがあるんだなアーと思った。(尾崎も時々やる)
さて最終日。まず私が見たかったのは、バレステロスが前日「ピンからフェードの100点ショット」を見せた7番のパー3だ。
そしてこの日は、風が左からでピンの位置も右端。
この旗に向かって、この日も一緒の磯村はピンの左から打った。
本日、同伴の羽川豊は、50メートル左(これはジョーク)から、ピンに向けドローで打った。(羽川は左打ちだから)
そしてバレステロスは、昨日と同様、ピンからフェードの100点狙いで打って右へスライスした(バンカーからパー)。ミスはしたけど、私は一応ナットクだった。
2日間の印象を総合的にいうと、彼はグリーン狙いのほとんどのショットを「ピンからフェードの1
00点狙い」で打つタイプ(その最優秀プロ)だと読めた。
その点、わからなかった(理論でははかれない?)のは、日本人プロ代表として羽川豊のプレーだ。
羽川は、尾崎軍団だから、気心は知れているのに?
いや、羽川の場合は、基本的にはピン向けドローの打者だが、彼のアドレスやスウィング部品の中に、スライス用部品もまだ残っているので、50メートル(実はその半分)も左へ向けてアドレスして、そこから引っかけ気味に打ちたくなるのだろう。
結局、難しそうなバンカーショットやアプローチ、そして3メートル前後のパットが、寄らなかったり、入らなかったりしたのもたくさん見たが、最終的には、もっと分かりやすい(スクェア打法)バレステロスの優勝で順当だった。
(週刊ゴルフダイジェスト1988年11月29日号)
1988年VISA太平洋クラブ・マスターズ最終結果
太平洋クラブ御殿場コース/7072ヤード/パー72
1位 -7 セベ・バレステロス(スペイン)
2位 -4 船渡川育宏
3位 -3 磯村芳幸
J・M・オラサバル(スペイン)
5位 -2 D・イシイ(米国)
高橋勝成
スコット・シンプソン(米国)
8位 -1 中嶋常幸
羽川豊
太平洋クラブ御殿場コース
静岡県御殿場市板妻941-1
TEL 0550-89-6222
コースタイプ/林間コース
会員権/預託金制と入会金制
グリーン/ベントの1グリーン
18ホール/7327ヤード/パー72
設計/加藤俊輔
改造/リース・ジョーンズ
監修/松山英樹
開場/1977年
公式ホームページはこちら
「行ってみたいコースは?」と聞けば、必ず上位にランクされ、秋のビッグトーナメント『三井住友VISA太平洋マスターズ』の舞台としても有名な日本を代表するコース。
2018年に「現代の世界水準のコース」への進化を目指し、半年間におよぶコース改造に着手し完了。加藤俊輔の原設計を生かしながら、21世紀に合った世界水準の戦略性を加えることに成功した。改修を担当したのは世界的設計家のリース・ジョーンズ氏。監修は2011年、2016年のトーナメント優勝者、松山英樹。
現在の太平洋クラブ御殿場コース
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