【ゴルフコースの評価基準】
ゴルフコースを評価する「7つ」の項目がある。①ショットバリュー、②難易度、③デザイン・バランス、④ホールの印象、⑤景観の美しさ、⑥コンディション、⑦伝統・雰囲気。この7項目は米国ゴルフダイジェスト、ゴルフマガジンが発表するランキングの評価基準にもなっている。当コラム【伝説の名勝負。ヒーローの足跡】は、このコースでどのような「歴史」が作られ、「公式競技」を開催したかを掘り起こすことで、「伝統と雰囲気」をみるものです。
今週のウォッチャーは保国隆。グリーンウェイゴルフ社長。振動数理論をいち早く取り入れるなど、ゴルフクラブの機能を科学的に分析。著書に「スウィングに科学」「クラブを科学する」など多数。編集部注/プロフィールは1990年当時のものです。
気になるパープルシャフトの威力はいかに…
いま、アメリカのプロの間ではパープルカラーのハイテクシャフトが注目されている。
日本でも、アメリカ帰りの大町昭義をはじめ、横山明仁、水巻善典たちも使用しているとのこと。
そこで、実戦の中でこの流行のシャフトがどのように威力を発揮しているのか確かめたいのと、プロに互して戦うトップアマたちがどのようなゴルフ観を持っているのかという興味があり、関東オープンのウオッチャーを引き受けることにした。
今年の関東オープンは、残暑のきびしい8月末から9月のはじめにかけて、栃木県の東ノ宮カントリークラブで開催された。
2日目まで10アンダーの川岸良兼が、そのまま楽勝か? と思われたがさすがは世界のアオキ、そう易々とは川岸を勝たせはしなかった。
最終日、8番ホールで8アンダーと青木が川岸をとらえたときは、「やはり、世界を相手に戦ってきた男は凄い」と思ったものだ。しかし、結果は、青木が自滅する形で川岸の勝ちとなるのだが、後から聞けば、青木は左肩痛と疲労の極の中で戦っていたというではないか。私は改めて青木の凄さを感じ入った。
さて、問題のパーフルカラーのシャフトだが、このシャフトの誕生には、次のようないきさつがある。
アメリカでは、5年ほど前から、カーボンシャフトが見なおされ、毎年、倍々の勢いで急増し、昨年は400万本前後も売れたようだ。
日本では、カーボンシャフトの最大のメリットは軽さにあり、唯一の欠点は「ねじれ」にあるといわれてきたが、腕力のあるアメリカ人ゴルファーや男子プロにとっては軽すぎるのが欠点だった。シャフトが軽すぎると、プレッシャーがかかったとき、方向性がブレるからだ。
ところが、ねじれが少なく、しかも重いカーボンシャフトだと、プロでも使える。
テーラーメイドのメタルヘッドについているツアーゴールドのカーボンシャフトは、94グラムもある。
プロの間では、このツアーゴールドとアルディラ社のHM70のカーボンシャフトの評判が良いが、両方とも表面はメタリック塗装で、ともにゴールデンカラーだ。
問題は、このメタリック塗装。一般ゴルファーは、黄金色に輝くカーボンシャフトは、なにやら高級品めいて、いかにも「はじき」が良さそうにみえるだろうが、クリアラッカーの中に金粉を入れ、カーボンシャフトの表面にスプレーで吹き付ければ、簡単にできる。
そのうえ、表面に多少の凹凸があっても、光線が金粉で乱反射するので、表面の仕上げが乱雑でもわからない。
そのため、黄金色にメタリック塗装した重くて粗悪なカーボンシャフトが出まわるようになった。
各クラブメーカーは、粗悪品と混同されないためと、シャフトにもファッション性をもたせた方が良いのではないか? という考え方で、にわかにカーボンシャフトがカラフルになった。
ダンロップでは派手なスカイブルー色のカーボンシャフトを出し、関東オープンでは池内信治が使用していたが、アメリカではシルバーグレーや、まっ白なカーボンシャフトも出現し、そのうち、まっ赤なカーボンシャフトも登場しそうだ。
ところが、テーラーメイドの発表したパープルカラーのシャフトは、単に表面の色だけをかえたのではなく、10層のグラファイト繊維の最外層に2層のセラミック繊維をかぶせたものだが、現実に、大町昭義、横山明仁、水巻善典のプロたちは、このシャフトにメタルヘッドをつけて、関東オープンで使用していた。
大町昭義は、「このパープルシャフトをデトロイトで試打してみたのだが、良く飛びますよ。それ以来、トーナメントで使用しているが、左へ行く心配がないので思い切ってたたける」
横山明仁は、「ツアーゴールドより飛んでいる。弾道がいい」
関東オープンの舞台、東ノ宮CCを設計した富澤誠造のコース特集はこちら↓
プロとアマの差は、「ここぞ」のパット
プロが飛ぶというと、まっ先にテストするのがトップアマたち。
ところが、関東オープンに出場し、決勝ラウンドに残った6人のアマたちは、それぞれ独自のゴルフの美学をもっており、まだ、カラフルなシャフトには手を出していない。
初日に68という、アマとしては素晴らしいスコアでまわり、ベストアマになった堀越栄治郎さん(相模原)は、ドライバーの飛距離は240ヤードぐらいだが、ステディなアプローチとパットが身上のゴルファー。
バッグのなかに、カスタムメイドのパーシモンウッドと、2番アイアンが入っていたのが印象的。なにやら、ベストアマのプライドと美学を表現しているようだった。
クラブに、美学と感性を表現しているのがパーシモンの沼沢モデル。
関東オープンの決勝に残った6人のうち、2人が沼沢モデルのパーシモンを使用していた。
和田博さん(東京五日市)は、ハンディがプラス1のトップアマ。ウッドは沼沢モデルだが、アイアンはマグレガーのVIP。そのうえ、プロでも使いこなすのがむずかしいといわれている、L字型のウイルソン8802のパター。
和田、「プロとアマの違いは、パッティングですね」
プロの中に入ってしまうと、アマとは思えないほどのスウィングと、体格なのが奥延通康さん(
茨城・ハンディ+1)。クラブ理論も独自のものをもっており、シャフトはカーボンのダブルX。
奥延、「飛距離は、プロとまったくかわらないと思います。パット数だけを数えても、プロと変わらない。(初日28パット、2日目27、3日目29)パーオン率も大差ないと思いますが、肝心なときのパットがちがう。それと、アマはワンホールごとを大切にしますが、プロは、スコアメーキングの流れを重視してゴルフをしています」
奥延さんのゴルフ美学は、ワンホールごとのスコアをきちんとすることだったとしたら、いかにもトップアマらしい。
トップアマの心境を、ずばり語ってくれたのが鹿窪一郎さん(セントラル)だ。
鹿窪、「ドライバーが飛んだとか、アプローチが寄ったとか、ここがチャンスだなと思ったとき、きちんとバーディかパーにおさめるのがプロで、しめたと思って、あせってプレーして、墓穴をほるのがアマ」
この言葉は、アベレージゴルファーにもそのまま教訓になる。
深堀圭一郎(現プロ/新千葉・21歳)は、同窓生の明治大学ゴルフ部所属の学生をキャディにしていた。
深堀、「プロは、いいグリーンになれているが、アマは悪いコンディションでプレーしている。だけど、ボクは、プロと飛距離がかわらないのだから、欲をいえば、ベストスコアを狙いますよ」
この発言、若き日の中嶋常幸によく似ている。成長株であることは間違いあるまい。
44歳で、2日目に69を出して決勝に残った吉田光男さん(現プロ/湘南シーサイド)は、「69は出来すぎで、決勝に残れたのは信じられないくらい。なんとか80以上たたかないようにしたい」といってプロに自分の練習時間をゆずっていた。これが吉田光男ゴルファーの美学なのだろう。
【試合経過】
【初日】川岸良兼が4アンダーでトップに立ち、2位グループには2アンダーで羽川豊、ギリガン、アマチュアの堀越栄治郎が続く。
【2日目】川岸が通算10アンダーと伸ばし独走態勢に。2位は羽川の4アンダー。青木功が3アンダーの3位。
【3日目】川岸が73とスコアを崩し、青木が逆に68とスコアを伸ばし、2打差の2位へ。
【最終日】一時は川岸、青木がトップタイに並んだが終盤で青木が崩れ、川岸が公式戦初優勝。プロ入り2勝目を飾った。
1990年関東オープン最終結果
東ノ宮CC/6896ヤード/パー72
1位 -7 川岸良兼
2位 -5 青木功
3位 -4 羽川豊
4位 -1 稲垣大成
5位 0 加瀬秀樹
須貝昇
泉川ピート
8位 +1 海老原清治
ギリガン
東ノ宮カントリークラブ
栃木県芳賀郡茂木町木幡寺ノ入181
TEL 0285‐63‐1166
コースタイプ/丘陵コース
グリーン/ベントの1グリーン
会員権/預託金制で譲渡可
さつき・あおい/6917ヤード/パー72
コースレート73.4/スロープレート137
あおい・おばな/6768ヤード/パー72
コースレート72.2/スロープレート131
おばな・さつき/6861ヤード/パー72
コースレート72.6/スロープレート131
設計/富沢誠造、富沢廣親、川田太三
開場/1974年
公式ホームページはこちら
現在の東ノ宮カントリークラブ
最新の会員権相場はコチラ