シーズン前半の総まとめともいえる日本プロゴルフ選手権。1983年大会は最終日こそ雨にたたられたが、ビッグタイトルにふさわしく白熱した試合となった。青木功、杉原輝雄、羽川豊といった実力者をおさえてプロ日本一の座についたのは中嶋常幸(当時28歳)だった。

【ゴルフコースの評価基準】
ゴルフコースを評価する「7つ」の項目がある。①ショットバリュー、②難易度、③デザイン・バランス、④ホールの印象、⑤景観の美しさ、⑥コンディション、⑦伝統・雰囲気。この7項目は米国ゴルフダイジェスト、ゴルフマガジンが発表するランキングの評価基準にもなっている。当コラム【伝説の名勝負。ヒーローの足跡】は、このコースでどのような「歴史」が作られ、「公式競技」を開催したかを掘り起こすことで、「伝統と雰囲気」をみるものです。

10メートルのパットを決め、わずか10分で首位奪還

画像: 最終日は、予報を裏切る強い雨の中でのラウンドとなった

最終日は、予報を裏切る強い雨の中でのラウンドとなった

中嶋は2番をパーで終えたとき「このハーフはこらえるしかない」と思った。

2番は480メートルのロングホール。右ドッグレッグのこのホールは飛ばし屋には楽に2オンでき、中嶋は3日間バーディを獲っている。そのホールでパー。2打をグリーン左のエッジまで運びながら、ランニングアプローチを3.5メートルもオーバーしてしまった。2パット。

だが、このホールに限っては、パーというよりボギーを叩いたような気分だったに違いない。

曇りときどき雨の予報を裏切る強い雨。目の前の組では4打も差があった青木が、1、2番を連続バーディで通過している。

中嶋 「1番で青木さんがバーディを獲ったから、これはくるなと思いました」

スタートからたった2ホールで、同じ最終組の謝敏男、船渡川育宏よりも、前の組の青木をマークしなければならなくなった。

中嶋 「3番からは歯切れが悪いゴルフになっちゃいました」

歯切れのよさとは、構えたときに何の迷いもなくプレーしているときだという。構えたときにしっくりこない、心残りがあるというのが歯切れの悪い、リズムのない状態というわけだ。

画像: ティショットを放つ中嶋

ティショットを放つ中嶋

「何か」が心を占めているために、ショットも狙いからはずれる。ティショットがブレはじめる。7番ではティショットを左の深いラフに打ち込み、6番アイアンの2打もグリーンを右に大きく外す。1.2メートルの寄せも入らず、ついにボギー。

アウトを終えて、心機一転をはかりウェアからシューズまですべてを着替えてみても、まだ自分のゴルフがもどってこない。それどころか11番では15メートルを3パットのボギー。

中嶋 「ラウンド中、2度も敗戦のコメントを考えていました。最初は7番のボギーのあと『自分に負け、自然に負けた』。次が11番。『自分と雨とコースに負けた』と」

競技終了後に聞くから冗談に聞こえるが、11番では雨とグリーンを呪いたいような心境だったろう。

この大会のためにコースを手入れした紫雲GCの塩田氏によると、「グリーンは小さいのですが起伏があり、しかも芝目も入りくんで複雑です。特に18番、13番、14番。この3ホールはプロでも読み切れないかも…」

コーライグリーンでのトーナメントが減っているだけに、なおさら読みにくいはずだ。

塩田氏の予言通り、その13、14番でスコアが動いた。

画像: トップ争いを繰り広げた青木

トップ争いを繰り広げた青木

13番。青木バーディ、中嶋1.5メートルを2パットしてパー。7アンダーの中嶋が初めて8アンダーとなった青木に逆転された。

14番、青木約10メートルを3パット。中嶋はほぼ同じ距離を1パットのバーディ。わずか10分ほどで青木を首位の座から追い落した。

中嶋 「14番はパットする前に、不思議にモヤモヤがふっ切れていました。長いスライスラインを、自分でもビックリするくらい打ち抜けました。これで行けると思った」

14番で初めて出たガッツポーズ。そして16番ロングで1.5メートルにつけた3打目でも。

天候と青木、そして自分にも勝った中嶋。苦しみながらもわずかなチャンスをガッチリものにする集中力。技術だけでなくメンタルも強くなっている。

昨年末の日本シリーズ、5月の日本プロマッチに続き、もっか「日本」3連勝。気分よく米国へ出発していった。

 

画像: 中嶋のアプローチ

中嶋のアプローチ

日本プロ中嶋語録。まだ青木さんには遠く及びません

── 今回の勝利と日本マッチプレー

中嶋 日本プロマッチプレーで勝てたことが、大きな自信になっています。いい試合でしたものね。ああいう試合ができて、しかも勝てた。最高の幸せです。あのマッチプレーが僕のゴルフに幅を持たせてくれました。勝負の駆け引きの中で勝ち抜くことができたのですから、崩れかかってもズルズルとはいかないようになりました。日本プロでその経験が生きています。こんな苦しい展開で、14番の長いパットを決めることができたのも、マッチプレーで得た自信からです。

── 攻め方で気持ちに余裕

中嶋 攻めるのにも、柔軟性を持つこと。たとえば紫雲の13番500メートルのロングです。ティショットが飛べば2オンできます。だからといって2オンしなければバーディがとれないというわけではありません。アプローチの楽なポイントに落とせばいい。グリーン手前にバンカーがあるので、寄せるにはグリーン手前か、右サイドからと思ってしまうわけです。実際は2打でバンカーに入れてもバーディはとれますから、3カ所から攻められます。今までに13番を攻めるとしたら2カ所だけ。バンカーもバーディルートのひとつという認識ができてから、余裕をもって攻められる。今まではそれに気が付きませんでした。

── 青木さんは偉大

中嶋 賞金ランクが1位だから、青木さんに競り勝ったからといって、青木さんを超えたとは思っていません。青木さんは偉大ですよ。あのニクラスと全米オープンで名勝負をした人ですよ。青木さんの築いた道には、まだまだあまりにも遠いですよ。それだからこそ、今、僕達が出てこなければ、青木さんに悪いと思うんです。青木さんのいいときに羽川や僕、倉本ら若手ががんばれば、青木さんも安心すると思うんです。人間には年輪と奥行きというものがありますから、トータルで考えなければいけないと思います。僕はまだ28歳。まだまだ青木さんには遠く及びません。

画像: 雨中の熱戦、青木功のショット

雨中の熱戦、青木功のショット

── グランドスラムのチャンス

中嶋 日本マッチに勝って日本プロ、わかっていますよ、日本オープンはどうかっていうんでしょ。日本オープンと日本シリーズをとれば、日本タイトルのグランドスラムのチャンスだと。2つ勝っただけで上出来ですよ。4つもとったら独占禁止法違反だっていわれちゃう。2つで満足ですよ。でも日本オープンには希望はあります。いいコース(六甲国際)だし、歯切れのいいゴルフができれば。

(週刊ゴルフダイジェスト1983年8月17日号)

画像: 日本プロ中嶋語録。まだ青木さんには遠く及びません

【1983年日本プロゴルフ最終結果】
紫雲GC/6407メートル/パー72
1位 ‐9  中嶋常幸(美津濃)
2位 ‐7  青木功(日本電建)
2位 ‐7  羽川豊(フリー)
4位 ‐6  謝敏男(鳳凰)
4位 ‐6  杉原輝雄(フリー)
6位 ‐4  船渡川育宏(南部富士)
7位 ‐3  水野和徳(小山)
7位 ‐3  倉本昌弘(土佐)
9位 ‐2  山本善隆(城陽)
9位 ‐2  増田光彦(高松)
9位 ‐2  磯崎功(都留) 

紫雲ゴルフ倶楽部
新潟県新発田市元郷211
TEL 0254‐41‐2471
加治川コース/6621ヤード/パー72
コースレート72.0/スロープレート138
設計/藤田欽哉
コースタイプ/林間コース
飯豊コース/6847ヤード/パー72
コースレート72.8/スロープレート132
設計/デニス・グリフィス
コースタイプ/アメリカンスタイルコース
グリーン/ベントの1グリーン
練習場/200ヤード、アプローチ
加盟連盟/JGA、KGA
会員権/株主制で譲渡可
開場/1965年
最寄りIC/新潟市より新新バイパス・聖籠ICから6キロ
最寄り駅/上越新幹線・新潟駅より40分
公式ホームページはこちら

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