「昭和、平成の名勝負」を振りかえるこのコーナー。今回は1985年の日経カップ中村寅吉メモリアル(於:川越カントリークラブ/6111メール、パー71)をお送りします…。夏、真っ盛り。一歩外に出れば汗が滝のように流れるこの暑さを吹き飛ばしたのは尾崎直道だった。食い下がる岩下吉久、須貝昇をバーディラッシュで一蹴し、終わってみれば4打差。前年、賞金王に手がとどきながらも逆転され2位、その悪夢をふっきり、そして今、新たなスタート台に尾崎直道は立った。

【ゴルフコースの評価基準】
ゴルフコースを評価する「7つ」の項目がある。①ショットバリュー、②難易度、③デザイン・バランス、④ホールの印象、⑤景観の美しさ、⑥コンディション、⑦伝統・雰囲気。この7項目は米国ゴルフダイジェスト、ゴルフマガジンが発表するランキングの評価基準にもなっている。当コラム【伝説の名勝負。ヒーローの足跡】は、このコースでどのような「歴史」が作られ、「公式競技」を開催したかを掘り起こすことで、「伝統と雰囲気」をみるものです。

最終日13番バーディで優勝シーンが見えた

画像: 尾崎直道

尾崎直道

気温34.4度、湿度56パーセントの炎天下、猛暑のため頭がふくれあがり、発狂寸前になった人々の列がコースを取り囲む。その数9126人。

ギャラリーのまき散らした汗は即水蒸気となり、各ホールに潜む怨念の妖気と化していた。

「うん、この前ジェット(兄、健夫)と徳島の家に帰った時、このお盆は来れないからって、墓参りしたんだ。いつもは先祖に『こうしてちゃんと生きてられることに感謝します』という心を伝えるだけだったんだけど、今年はお願いしちゃったんだ。『なんとか今の宙ぶらり状態を打破したい』ってね」。そしたら、先週の日本プロでジェット。今週がボクでしょ。初めてのお願いを叶えてくれた先祖に感謝しますよ」

昨年の今頃は賞金レースのトップを爆走していた直道にとって、今年は、その資質というものを試される年となっていただけに、不振退散のきっかけを作ってくれた徳島の先祖に一番最初に礼を述べたかったのだろう。

サイコキネシス――超心理現象というのがある。

いわゆる人間間のテレパシー交信から始まって、心に思うだけで物質をも自由に動かしてしまうという現象のことだ。

画像: 気温34.4度。酷暑の中でのラウンド。写真左は同組の岩下吉久

気温34.4度。酷暑の中でのラウンド。写真左は同組の岩下吉久

笑いごととされていたこの妖術もどきだが、交信不能となった宇宙飛行士との連絡方法のひとつとしてNASAで研究され始めてから、極めて真面目な自然科学のランクを獲得するにいたったのだ。

どうやって――。それがわかっていれば、誰だって妖術使いになっているはずである。

現在のところ「右脳の開発」と「心の修行」が最も近い開発方法とされている。

人間の脳は左半球で考え、行動し、右半球はほとんど使われていない。いわゆる「ひらめきの右脳」
と呼ばれていた。

その右脳を刺激し、開発することで、左半球でのみ歴史を創り上げてきた人間界を超越しようというものだ。

心の色を無色透明にし、ささいな雑念をも解消した時、「右脳」は息づき、活動を始める。

直道が徳島の墓の前に立った時、生まれ育った土地が彼を童心に帰し、心の色が透った時、右脳にパワーラインが引かれたのかもしれない。

2日目、倉本昌弘とともに首位タイで折り返した時、「ナイスプレーなんかじゃないよ」としながらも、終始笑顔で通せたのは、無心状態だったからだろう。

画像: 最終日、リラックスした表情でティオフ

最終日、リラックスした表情でティオフ

画像: 健闘およばず5打差の3位、須貝昇

健闘およばず5打差の3位、須貝昇

20年ぶりにトーナメントが開かれた川越カントリークラブ、トーナメントに不慣れなキャディにコンセントレーションをかきまわされたプロが多い中、直道だけはイライラからドロップアウトできていたのだ。

だから、最終日も普通ならテクニック不足のボギーの連続で崩れ去っていってしまうアウトも心のパワーが技術の上を行き、パープレーにおさめたのだという。

そしてイン。3打差につめよる兄ジャンボ始め、強豪たちを無意識のうちに身につけてしまった「サイコキネシス」で一気につき放すバーディラッシュ。

画像: 2位はトータル10アンダーの岩下吉久

2位はトータル10アンダーの岩下吉久

13番ショートホールでは12メートルのバーディパットを決めた。

この瞬間に、直道の無色の心の中に初めて色がつき、映像が生み出された。

「うん。あの時はヤッタというより、何かよくわからないけど18番グリーンで笑顔で手を上げている自分が見えたんだよ」

素直に信じられた映像だからこそ現実のものになったのだ。

これがサイコキネシスの原理であり、右脳を使った勝利といえるのもしれない。

「何か肩に重くのしかかっていたものがスッと消えていった感じだよ。技術的には、まだ納得できないものがたくさんあるけれど、後半戦が楽しみになってきたね…」

プロである以上ひとつでも多く勝って、金をたくさん稼ぐというのが常であるだろうが「金の魔力は人を俗悪商人と変える」

画像: 尾崎直道のティショット

尾崎直道のティショット

さて、尾崎直道はどうかと見れば、金よりも何よりも、勝った喜び、そして勝つ魔力にとりつかれたはず。

「去年の成績をふっきるパワーを持ったんだよ。最終順位はともかく、この優勝は彼をひとまわり大きくしたんじゃないかな…」

今年の関東プロで、18番逆転イーグルでサイコキネシス優勝をかざった中嶋常幸はこう評した。

ジェットにかけられた祝福のビールと芝の照り返しで赤く焼けた瞳の奥にあった心模様を具現した透明さをいつまでも失わないことをただただ祈るのみだ。

画像: 最終日13番バーディで優勝シーンが見えた

(週刊ゴルフダイジェスト1985年9月3日号)

【1985年日経カップ中村寅吉メモリアル最終結果】
川越CC/6111メートル/パー71
1位 ‐14 尾崎直道
2位 ‐10 岩下吉久
3位 ‐9  須貝昇
4位 ‐8  中嶋常幸
4位 ‐8  倉本昌弘
4位 ‐8  青木基正
7位 ‐7  尾崎将司
8位 ‐6  鷹巣南雄
9位 ‐5  謝敏男
9位 ‐5  藤木三郎
9位 ‐5  鈴木豊

川越カントリークラブ
埼玉県東松山市大字大谷4189
TEL 0493‐39‐1261
西コース/3292ヤード/パー36
中コース/3309ヤード/パー36
東コース/3193ヤード/パー36
コースタイプ/丘陵林間コース
グリーン/コーライとベントの2グリーン
設計/中村寅吉、発知朗、大竹敏郎
練習場/240ヤード/アプローチ、バンカー
加盟連盟/JGA、KGA
会員権/預託金制で譲渡可
開場/1963年
最寄りIC/関越道・東松山ICから12キロ
最寄り駅/東武東上線・東松山駅、JR高崎線・熊谷駅
公式ホームページはこちら

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