コース設計家・井上誠一が、現地視察の時点からトーナメント開催を意識して造ったという鹿児島県の『いぶすきゴルフクラブ』。50年後の現在、いぶすきでグリーンキーパーを務めるのが濱崎大輔さん。濱崎さんは、中学生の時に芝草管理に興味を持ち、高校卒業後は地元の広島を離れて芝草研究室のあった南九州大学に進学、卒業とともにコース管理の道へ進んだ。少年時代に抱いた興味は尽きることなく、やり甲斐のある毎日を送っていると話す。

きっかけはJリーグのピッチ管理を見たことだった

中学の時に、Jリーグのサンフレッチェ広島の練習場でサッカーをする機会があり、その場で管理風景を見たのが芝生に興味を持つきっかけだっという濱崎さん。

「芝生が刈込によってゼブラ柄やクロス柄に輝き出して、ピッチの見映えがみるみる変わっていく様子が印象的でした。その頃は土のグラウンドがほとんどで、芝の上でサッカーをする気持ちよさも手伝って余計に面白そうな仕事だなと…」と当時を振り返った。

芝生を管理し育てたいという思いで就職した指宿いわさきホテルには、かつてフランス代表も合宿した国際規格のサッカー用ピッチが2面付帯する。しかし、濱崎さんが希望したのは、ピッチではなく、いぶすきゴルフクラブだった。

濱崎 ゴルフは未経験でしたが、当時は男子プロトーナメント『カシオワールドオープン』を毎年開催(1981~2004年)していました。そのことは知っていましたし、コースという大きな器の方がやり甲斐がありそうだと感じたのです。

画像: 濱崎大輔さん(36歳) グリーンキーパー

濱崎大輔さん(36歳)
グリーンキーパー

── 実際に働いてみて、芝草管理に対する仕事の印象は?

濱崎 着任当時は、自分が担当した作業で芝草がどんな反応をするのか知りたくて早めに出社したり、業務後にコースを観察していたのですが、作業には〝これが正解〟というものがありません。やればやるほど奥が深いな、と感じます。前回通りの作業を計画するのではなく、ほんの少しでもアレンジを加えるように務めています。

── ほんの少しのアレンジとは具体的にどのようなこと?

濱崎 たとえば、春に行うグリーンのコアリング(芝生の生育をよくするエアレーションのひとつ)。タイン径(地面に刺す中空状の筒)や孔と孔の間隔を変えることはもちろんですが、コアリング前にサッチング(古い芝生を取り除く)をかけてみるとか、その翌年はバーチカル(芝面に垂直方向の切り込みを入れる)をダブルでかけるといった具合です。

濱崎 きちんと施肥をしていることが前提ですが、春は強い負荷をかけた方が健全なターフに仕上がるように感じています。刃の刺激によって新陳代謝が促進され、新芽がたくさん出やすい状況になるからだと思っています。作業効率は下がりますが、まだ若輩者ですし、ひとつの方法で作業するよりも、今はできるだけ引き出しを増やしたいと思っています。

── そのように引き出しを増やしながら、目指しているグリーンとは?

濱崎 プレーヤーのイメージ通りにボールがスムーズに転がるグリーンです。そのピークは11月23~25日の開催のPGAシニアツアー最終戦『いわさき白露シニアゴルフトーナメント2018』になりますが、お客様に満足いただくためにも、その状態をできる限りキープしたいです。

画像: 1番(433ヤード パー4)のグリーン。「イメージどおりにスムーズに転がるグリーンがベストです」(濱崎さん)。コースの向こうに見えるのは開聞岳

1番(433ヤード パー4)のグリーン。「イメージどおりにスムーズに転がるグリーンがベストです」(濱崎さん)。コースの向こうに見えるのは開聞岳

グリーンはスムーズに転がること。そして、雨に強いこと

── トーナメントに向けて、重視している作業は?

濱崎 目砂も大切ですが、いちばんは刈込です。10月以降はいろいろな方向から刈込んで芝目をなくすとともに、グルーマー(芝を刈るモアの調整器具)で寝ている葉を極力なくしていきます。11月に入ってからは朝夕のダブルカット、場合によってはそれ以上で刈込みます。昨年の大会時にはグリーンスピードが12・5フィート出て、選手の方からも一定の評価をいただきました。

── 現在の課題は?

濱崎 降雨時のコンパクションの維持です。というのも、4年連続で最終日に雨が降っているからです。コンパクションが落ちると転がりが悪くなります。天候を変えることはできませんから、管理方法を見直すことで転がりを維持できないか検討しています。

画像: 芝の根の張り具合を高めるために、発根促進資材を試験中。手にする器具でコンパクションを測る

芝の根の張り具合を高めるために、発根促進資材を試験中。手にする器具でコンパクションを測る

── どのような管理を考えているのでしょう?

濱崎 いままで以上に、根の張り具合を高めたいと思っています。今年3月から1ホールだけ発根促進資材を試し始めて、約4カ月(取材時は夏)を経過しました。セカンドショットの着弾音を聞くと、他のグリーンより音階が高くなったように感じます。まだ目指す状況ではありませんが、今後は全グリーンで使用していく予定です。

野芝フェアウェイのフライヤー対策

── 来年(2019年)には国内メジャーの『日本プロゴルフ選手権』が控えていますね。日程が5月から7月に変更されましたが、準備は順調ですか?

濱崎 グリーン以外では、やはりフェアウェイの管理です。野芝は低刈りが難しく、高麗芝よりも葉の抵抗が大きくフライヤーしやすいのです。フェアウェイも芝の密度と生育ムラを作らないことが鍵になるでしょう。目砂で葉を立たせつつ刈込頻度を上げて密度を高め、生長抑制も検討しています。刈込方法もテストしています。

画像: いぶすきGCのフェアウェイは野芝。「芝密度の高い、生育ムラの無い、最高のフェアウェイを日々目指しています」(濱崎さん)

いぶすきGCのフェアウェイは野芝。「芝密度の高い、生育ムラの無い、最高のフェアウェイを日々目指しています」(濱崎さん)

濱崎 現在はフェアウェイをゼブラに刈っていますが、一部のホールは行って来い形式で刈っています。刈込のたびに順目と逆目を交互にすれば芝目がなくなり、競技上もフェアですし、葉密度が上がるのではないかと思っています。

画像: 7番(410ヤード パー4) フェアウェイの刈込方法も研究を続けている

7番(410ヤード パー4) フェアウェイの刈込方法も研究を続けている

濱崎 9、15、16番ホールにティグラウンドを増設したほか、17番ホールのグリーンを改修しました。グリーン手前に池が絡むホールですが、30年前に高麗芝からベントグラスに草種転換を行って以降、侵入してきた野芝や高麗によって池との距離が開いてしまいました。スリリングな試合展開を生むためにベント改造時の姿に戻しています。フェアウェイの幅も広げています。開場時からの管理で狭まっていたこともありますが、全米オープンなど海外トーナメントの影響もあるのでしょうね。

画像: 17番 206ヤード パー3 トーナメントに向けて池とグリーンの間を狭く改修。「長年の間に、グリーンと池の間が広がっていたのです」。オリジナル設計に近づけた

17番 206ヤード パー3 トーナメントに向けて池とグリーンの間を狭く改修。「長年の間に、グリーンと池の間が広がっていたのです」。オリジナル設計に近づけた

── 猛暑になることも予想されますが、ターフ管理の影響は?

濱崎 グリーンはシミュレーションをしました。梅雨時で段取りが組みづらく、晴れたら晴れたで強烈な日差し。その状況でグリーンを仕上げるためにも、前述した根張りの向上が欠かせません。

濱崎 来年の日本プロは国内メジャーの大会ですから、テレビ中継でいぶすきゴルフクラブを全国の人にアピールできます。系列の種子島ゴルフゴルフリゾートとホテルの園芸部門にも協力してもらい、グループ総動員で大会を成功させたいです!

いぶすきゴルフクラブ芝草情報
グリーン(ベント)/アート1号・962(ワングリーン)
ティグラウンド/高麗
フェアウェイ/野芝
ラフ/野芝

画像: 2019年に開催する日本プロゴルフ選手権に向けて、ティの増設などの改造工事を実施

2019年に開催する日本プロゴルフ選手権に向けて、ティの増設などの改造工事を実施

いぶすきゴルフクラブ
所在地/鹿児島県指宿市開聞川尻6660
開場/昭和43年8月23日
コース/18H・7151Y・P72(コースレート74.4)
コース設計/井上誠一
面積/約50万㎡
土壌/ボラ土
水源/井戸
標高/100メートル
主要樹木/クロマツ、カシ
いぶすきゴルフクラブオフィシャルサイトはコチラ

ゴルフ場セミナー2018年9月号より

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