ゴルフ場メシ向上委員会は「高くて」「マズい」と何かと不評の多いゴルフ場の「味改革」に役立つヒントを探しながら、誰もが食べて旨いと感じる味覚の標準値を探ります。「旨いの基準」は本家本元、本流の味を提供し続ける伝統店、人気店のメニューを考察し、多くの人に支持される味の秘密に迫るものです。
暖簾の味は、つゆの味。「藪」は甘く、「更科」は辛く、「砂場」はその中間
江戸三大蕎麦の中でも「砂場」のルーツは江戸時代以前に遡る。もっとも歴史ある砂場の本家が南千住なのか。「この店は『糀町七町目砂場藤吉』が大正元年に南千住に移転し、昭和29年に建て替えられたものです。江戸期の南千住は葦が茂る湿地で、馬に乗って殿様が鷹狩りに来るような辺鄙な場所でしたが、明治に入って王子電鉄が開通して繁栄していったんです」
藪と更科の本家筋は3店ずつと言われるが、砂場では長岡さんの祖父が全国の砂場で構成する「砂場会」の初代会長を務めた。藪と更科にはこういった会はないが、砂場の場合、全国100軒以上の「砂場」に横のつながりがあり、現在も交流し味の向上に取り組んでいる。
砂場の味にはどんな特徴があるのか。
●そばの実の中心に近い部分だけを使っているので白く細い。
●汁は甘くなく、辛くもない中庸の味。藪は辛く、更科は甘い、その中間くらいと言われる。落語で言う「つゆはちょっとだけつける」という江戸風の食べ方は、藪の辛いつゆを念頭においたもの。
砂場の総本家である南千住砂場では、北海道産と信州産、越前産の蕎麦粉を季節や気候によって独自にブレンドし、その一番粉に(主人の感覚と経験で)小麦粉を混ぜ、卵と水でつないでいく。「どのくらい水を加えて、どれぐらい混ぜればいいのか、食材が語りかけてくるのがわかります」と主人。
田舎蕎麦に対して江戸蕎麦。雑味を除き風味を楽しむ
そばの実の中心部だけを使うのは、いわゆる田舎蕎麦に対する江戸蕎麦の基本。そこに小麦粉を混ぜるのも、つなぎを使うのも江戸中期からの製法だ。もともと蕎麦掻として食べられていた蕎麦を、麺切りして出したのは砂場が最初という説もあるほどで、砂場は元祖江戸蕎麦だけに、汁も蕎麦も中庸なのである。
醤油は千葉のヤマサ醤油。江戸には千葉(下総)という醤油の名産地があり、昆布出汁はあまり用いられず、使うのはカツオ節だ。南千住砂場では木枯れ節を洗って蒸かしてから使用している。
雑味を除き、風味だけを閉じ込めた蕎麦と、ほどよい濃さのつゆが交わる時、砂場本来の歴史の味が楽しめる。これぞ江戸蕎麦の王道。この味を知った上で楽しむべきだと思う。
【今回紹介した「旨いの基準」店】
創業/1912年8月
営業/10時30分~20時
定休/木曜日
砂場の流儀を守る! 暖簾分けした「虎ノ門砂場」と「室町砂場」
「室町砂場」は「天もり」発祥の店と言われ、訪れたら一度は食べたい名物。温かいつゆが香ばしい
創業/幕末の慶応年間(1865年-1868年)
「糀町七丁目砂場藤吉」から暖簾分け。芝高輪の魚籃坂(現港区三田高輪)で開業
営業/本店 平日11時30分~21時、土曜11時30分~16時
支店 平日11時~20時、土曜11時~19時30分
定休/日祝日、第三土曜日
虎ノ門大坂屋砂場
「虎ノ門砂場」は、もり蕎麦を基本に「季節の変わり蕎麦」など品数が豊富。豊かな風味のかえしをしっかり味わいたい
創業/1872年(明治5年)
砂場本家糀町七丁目砂場から暖簾分け
営業/平日11時~20時、土曜11時~15時
定休/日祝日