ゴルフ場メシ向上委員会は「高くて」「マズい」と何かと不評の多いゴルフ場の「味改革」に役立つヒントを探しながら、誰もが食べて旨いと感じる味覚の標準値を探ります。「旨いの基準」は本家本元、本流の味を提供し続ける伝統店、人気店のメニューを考察し、多くの人に支持される味の秘密に迫るものです。
尾が張った車えび。こいつぁ、縁起がいいや! と「尾張屋」になった
この尾張屋、創業は「明治2年」と物の本やウェブサイトに書かれているが、「本当は違うのだ」と五代目店主の田中美実さんは言う。「三代目が『そば屋の歴史なんていい加減なものなんだよ』ということで、創業を何故か明治2年に決めちゃったんです(笑)。何となくおかしいなと思っていて、さまざまな文献をひも解いたり、初代の生まれ年などを調べてみると、どうやら幕末にはこの尾張屋はあったみたいなんです」
取材のしょっぱなから飛び出す先制パンチ。尾張屋ワールドにググっと吸い込まれてしまった。「そば屋の創業なんて、どうでもいい」と一刀両断してしまう三代目の気っ風のよさと、それを疑ってかかる五代目の観察眼。いろいろなタイプの店主が切り盛りしてきた歴史が、この尾張屋にはありそうだ。
屋号も気になる。尾張屋というからには、名古屋と何らかの関係がありそうだが、「いやいや、当店は名古屋とは何の関係もございません」。2発目の衝撃の事実……。「昔から、尾っぽが張る、つまりピンと張った尾っぽは縁起がいいとされていたんです。鯛とか海老とか、おめでたいときに食べられる食材には尾が張ったものが多いでしょ。そんな縁起をかついで、屋号としたようです」
日本人らしく語呂や縁起を大事にし、「めでたい」屋号をつけ、(気っ風のよい例の)三代目によってその名は広く知られるようになった。尾張屋の天ぷらそばが人気を呼んだ理由は、ズバリ「揚げたて」であること。どうしても手間がかかるから、揚げおきした天ぷらを供する店が多い中、尾張屋では「揚げたて」にこだわっている。
この尾張屋で天ぷらを揚げて38年、調理場の主である大島常義さんは言う。「当店では間違いなく、注文が入ってから天ぷらを揚げています。ところが、お客様に提供するまでの時間が短いため、揚げおきかと思われることもあるんですよ(笑)。召し上がってもらえばすぐにおわかりいただけます。大ぶりの海老を天ぷら専用に絞った特製のごま油で揚げていきます。非常にさっぱりしていて、こんな大きな天ぷらなので油っこいのでは?と思われますが、実際はどなたにでも無理なく召し上がってもらえています」
この海老天を使った温そばは「天ぷらそば」と「上天ぷらそば」。ぜひ食べ比べて欲しいという大島さんのひと言で、両方を食べ比べてみた。ひと口食べてすぐわかる海老の味の違い。天ぷらそばが1500円。対して(車えびを使用した)上天ぷらそばが2200円。値段の差に躊躇するかもしれないが、例えば二人連れで食べ比べたお客さんは十中八九、「上天ぷら」を気に入るという。確かに。
【今回紹介した「旨いの基準」店】