大洗のコースを注意深くプレーすると、16番ホールを除く17ホールが、海岸線と平行して造られている事に気づく。それには理由がある。

ゴルフコースことはじめ
文芸評論家を経て、ゴルフジャーナリストとしても活躍した田野辺薫氏。ゴルフコースの目利きとして全国のコースを取材し、週刊ゴルフダイジェストで「ゴルフの歴史を歩こう」を連載(2005~2013年)。それを一冊にまとめた「美しい日本のゴルフコース」から多くの人に名コース誕生の歴史を知ってもらおうと再編集公開しています。

コースを包む黒松の林帯は初期の徳川幕府が、大洗海岸の防風、防砂のために植林したものだ。戦後手入れされないまま荒廃し、賑わうのは海水浴の夏だけだった。ゴルフ場を造れば、松原は整備され、1年中来場者も増えると考えたのが、霞ヶ関CCのメンバーでもある友末洋治茨城県知事だった。その計画は霞ヶ関CCの重鎮、藤田欽哉に伝わり、設計はその弟子、井上誠一に決まる。

松原を残すために、18ホール中17ホールが大洗海岸とほぼ平行

反対も少なくなかった。最後まで残ったのが「黒松の魚付林を伐採したら、魚がいなくなるのでは」という反対だった。魚付林とは魚が寄ってくる林のことだ。魚は暗い所に棲む習性がある。岸辺に影を落す黒松林を取り払ったら魚が逃げてしまうという危惧だ。

幸いこの漁業者の要望は井上誠一の「砂丘と黒松は最大限残す」というコンセプトと見合った。18ホール中17ホールを海岸線と平行に走らせることで、黒松林の姿は残り、漁民たちの魚付林は保存された。昭和27年9月着工、29年10月25日本開場。

画像: 10番ホール/530㍎/パー5 インのスタートホールは難ホール揃いのなか比較的やさしいパー5。バーディを狙えるがグリーン左には2つのバンカーが待つ

10番ホール/530㍎/パー5 インのスタートホールは難ホール揃いのなか比較的やさしいパー5。バーディを狙えるがグリーン左には2つのバンカーが待つ

大洗ゴルフ倶楽部には、井上誠一の設計美学が込められている。特に「砂丘地の自然地形を残す、黒松林を自然の障害物とする、人工的造型を避ける、裸砂地をラフとする。グリーンはワングリーン」を強調している。

自然から生まれる戦略性をもった草書型ゴルフ場の典型として、日本には数少ないシーサイドリンクス、「得難い日本ゴルフコースの宝物といえる」と書きつけている。

画像: 16番ホール/245㍎/パー3 18ホール中、唯一大洗海岸と平行ではないパー3。バンカーはないが、海から向かい風が難しさを上げる

16番ホール/245㍎/パー3 18ホール中、唯一大洗海岸と平行ではないパー3。バンカーはないが、海から向かい風が難しさを上げる

画像: 4番ホール/165㍎/パー3 ワンオンを前提として設計されたホールのため、井上は戦略的要素よりも彩りを添えるために池を造った

4番ホール/165㍎/パー3 ワンオンを前提として設計されたホールのため、井上は戦略的要素よりも彩りを添えるために池を造った

コンビネーションワングリーンからベントワングリーンへ生まれ変わる

それから50年が経過し、大洗海岸も変わった。平成3年2月、ベントと高麗のコンビネーションワングーリンが、オールベントのワングリーンに生まれ変わった。改造は井上誠一を最もよく知る設計者、大久保昌が担当。平成10年10月には、日本オープンが開催された。4日間の平均ストローク75・16、難コースぶりを再認識させた。

大洗ゴルフ倶楽部
茨城県東筑波郡大洗町磯浜8231-1
☎029-266-1234
開場日:昭和29年10月25日
コース:18H/7200Y/P72
設計:井上誠一
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取材・文/田野辺薫  美しい日本のゴルフコースより(弊社刊)

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画像: コンビネーションワングリーンからベントワングリーンへ生まれ変わる

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