ゴルフ場メシ向上委員会は「高くて」「マズい」と何かと不評の多いゴルフ場の「味改革」に役立つヒントを探しながら、誰もが食べて旨いと感じる味覚の標準値を探ります。「旨いの基準」は本家本元、本流の味を提供し続ける伝統店、人気店のメニューを考察し、多くの人に支持される味の秘密に迫るものです。
汗が噴き出す辛さの奥に、フォンドボーの深いコク
だし汁にカレー粉を加えたものや、カレールウを延ばしたものをうどんに掛けた〝カレーうどん〞が生まれたのは、明治37年。早稲田にある蕎麦屋「三朝庵」店主・加藤朝治郎が発案したと言うのが定説。ちなみに蕎麦版の〝カレー南蛮〞は、そこから5年後、大阪の「東京そば」で生まれた。
そこから100年以上、蕎麦屋やうどん屋にある品書きの、わりと〝後ろの方〞へ置かれながらも、カレー南蛮は細々とその存在感を保っていたが、2000年代初頭、都内を皮切りに全国各地で起こった「カレーうどん専門店ブーム」以降、自立した独自のメニューとして市民権を得た感がある。
ブームもひと段落した現在、雨後の筍のように林立していた店舗数も落ち着きを見せてはいるものの、 逆に言えば、今もある店は一定以上の評価を得ている人気店ということ。
2015年、有力店ひしめく世界に割って入り、またたく間に行列のできる人気店として知名度を得、さらに2017年にはミ シュランガイドの〝ビブグルマン〞(コストパフォーマンスが高く、調査員たちがおすすめしたいレストラン)まで獲得した一杯がある。
それが今回紹介する「神田一福」の〝カレーうどん〞だ。香川に本拠を置く讃岐うどんの名店「うどん一福」の暖簾分けを受けたという店舗はオフィス街にあり、常に長蛇の列ができている。混んでいる時間を避け、17時にお店を訪れた。
洒落なバルのような雰囲気だが、食券の自販機、カウンターと長テーブルが置かれた様は、本場の讃岐うどん店然としている。1.5玉入った中盛りの食券を店員へ渡して数分、カレールウがこんもり盛られた丼がやってきた。
中央に鎮座するバターは、実は高級ホテルのシェフやパティシエがこぞって愛用する〝カルピスバター〞と呼ばれる代物。乳酸菌飲料で有名な「カルピス」の製造過程でわずかに生まれる貴重品として、知る人ぞ知る一級品である。
幻のバターが溶けるのをじっくり待ち、カレーの地層を掘り進むと、麺が顔を出す。ここで驚くのは、「これでもか!」と麺に絡み付くカレーの濃厚さだ。ズズズッと麺をすすると、牛肉や野菜の深いコクが飛び込んできた直後に、辛さが追いかけてきて、汗腺が一気に開くのを感じる。
開始早々、強烈に主張してくるカレールウもまたこだわりの塊で、何と四谷にあるミシュラン1つ星獲得のフレンチ〝北島亭〞特製のものだそう。A5クラスの和牛や野菜から取ったフォンドボーが使われているという贅沢すぎる作りだという。
ここで忘れてはいけないのが、一福は香川を代表する老舗うどん店であるということ。強烈に主張し てくるカレーを受け止める麺もまた、負けちゃいない。新鮮で角が立ち、しなやかな弾力を持つと評 判の麺に〝うどん県〞の矜持をしっかりと感じる。
美食の国と〝うどん県〞の、これまでにない高レベルの融合が、ミシュラン選考委員たちを唸らせたにちがいない。そんな贅沢なコラボレーションを手軽に楽しめるなんて、東京はやはり、世界一のグルメ街なのだ。
月刊GD2019年4月号より